パニック障害は1980年迄は不安神経症と呼ばれていて、1990年にWHOが世界で統一した障害名にし、100人の内で2~4人が発病するとされる心の病で、病名も治療法も新しく一般的にも医療現場でも、まだ理解が不十分な病です。
最初になんの前触れもなく、激しい動悸と発汗、呼吸困難、めまい、脈拍上昇、ふるえ、胸の苦しさ、などの体に異常を感じて、心理的にこのままでは死んでしまうのかも知れないと恐怖感と不安感が襲ってくる、
パニック発作と呼ばれる、突然の症状が現れ、最初は救急搬送で医師の診断の前に収まるなどの比較的に短い発作で、血液検査や心電図検査では身体的な異常が見当たらず、「たまたま現れた気のせい」と本人も周囲も結論づける場合が多い。
しかしたびたび発作を繰り返す事で、発作が何時・何処で・どの位・起こるのかと不安が次第に増してきます。
パニック発作は身体的な検査データーには表れない心の病ですので、誤解や偏見を持たれやすく、これも本人にはストレスとして重くのしかかってきます。
心の病ならば、心は何処にあって、どの様な事が起こっているのか?
心は「脳」にあり、発病のメカニズムについては十分な解明がされておりませんが、パニック発作が起こるのは脳の機能障害によるものだという事は解明されてきています。
人の脳は大脳皮質の中でも新皮質が90%と多くを占めていて、情操や理解などの知的活動機能ができるのもこの新皮質のためですが、多くの動物が本能に従って生きているためにこの新皮質の発達が低くなっています。
人の脳にも本能を司っている旧皮質があり、生命の危機を回避するようになっていますが、大脳辺縁系と呼ばれる部分が、本能活動を司る旧皮質と知的活動を司る新皮質の中間にあり、中間皮質と呼ばれる事もあります。
パニック発作で起こる不安や恐怖は、本来は危険から生命を守る為の本能情動ですが、このシステムの役割を「扁桃体」と「青班核」が行ない、扁桃体が身辺の情報が五感を通して伝わり、危険を感知したら「恐怖感」を呼び起こして青班核に伝え、ここからノルアドレナリンという興奮作用を持った神経伝達物質が放出され、心拍数を上げたり呼吸数も上げて戦闘態勢に入ります。
しかし、このシステムが敏感だが不安定のために誤作動をする事があります。たとえば、風の音でもビクッとしたり、暗闇で急に鳥肌が立ったりなどの誤作動が起こります。
ノルアドレナリンは不安や恐怖を引き起こす神経伝達物質ですが、拮抗作用を持っているセロトニンという「幸福ホルモン」とも言われる神経伝達物質が不安を抑えて平常心を保てるようになっています。 また、セロトニンは痛みを和らげる働きも持っていて、セロトニンが低下すると痛みを感じやすくなる様です。
セロトニンは別名「5ー水酸化トリプタミン」と呼ばれるアミン系化合物で、人の体のには10mg程があり、色々な働きをしています。
体内のセロトニンの約90%は消化管にあり、腸では腸管の蠕動運動を促進しています。
次に多いのは血液中の血小板内に約8%が存在していて、主に止血作用に働いていて、血小板から放出されたセロトニンが血管を収縮して出血を止めています。
脳に於いては1~2%が神経伝達物質として神経から次の神経に情報を伝達する接合部の「シナプス」で働いていますが、神経伝達物質の代表的なものはセロトニンの他に下記の種類があります。
アセチルコリン、グルタミン酸、γアミノ酪酸、ノルアドレナリン、 ドパミン、ヒスタミン、ニコチン酸など
この神経伝達物質が脳内で最も多く使われているのはグルタミン酸だと言われていて、脳にとっての栄養素ともなりますが、セロトニンは少ない中でも非常に大きな影響を及ぼしている訳があります。
セロトニン系神経は中脳にある縫線核という部位に神経細胞があり、そこから視床・線条体・海馬・扁桃体・脊髄などの様々な部位に神経(軸索)を張り巡らしネットワークを形成しています。
セロトニン系神経は他の神経系に比較すると約100倍のシナプスを形成しているとの報告もあり、少量でも多大な影響を脳に与えています。
セロトニンが減少するとこれらの部位の働きも衰えて機能しにくくなります。
セロトニンが脳で働く主な役割には次の4種類があります。
●セロトニンはタンパク質であるトリプトファンというアミノ酸を原料 にして神経終末で合成されますが、人間はこのトリプトファンを作り 出す事は出来なく、食事から摂取しなければなりません。 トリプトファンは肉類や魚類の動物性タンパク質に多く含まれており、 豆類などの植物タンパク質にもある程度は含まれています。
しかし多く摂取すると問題も起こってきますので、偏食せずにバラン スの取れた食生活が大切です。 もしも、トリプトファンではなく、セロトニンの摂取を行えばと考え がちですが、脳には脳の血液関門という関所を通らなければ脳に到達 できなく、外部からの物質はこの関門で門前払いを受けるので意味が ありません。
●日光はセロトニン神経を活性化しますので、セロトニンを増やすため には、毎日の習慣として一日一回は日光に当たると良いでしょう。
●適度な運動で脳を活性化させると、セロトニン神経も活性化されます。 運動は脳の血流を増加させBDNF(脳由来神経栄養因子)という神経細胞 成長物質を増加させる事で、セロトニン神経も活性化されます。 運動は一人で出来る比較的単調な散歩やジョギング、水泳などの有酸 素運動をある程度の時間で行うのが良いでしょう。
●セロトニンを増やすには自ら意図的に脳を活動させるのが必要で、生 活の中で喜怒哀楽の感情を呼び起こす様に、引き籠もらずに外出し景 色の移り変わりに感動したり、美術館や記念館などで文化に触れる、 友人と談笑するなどの刺激を受て脳を活性化しましょう。
●セロトニンを増やすには十分な睡眠も必要ですので、ユッタリとした 寝間着と心地よく眠りにつけられる環境と、時にはお薬を使用するの も方法の一つになります。
パニック障害の最初の症状は
(パニック発作)が中心的症状で、不意になんの理由も無しに強烈な 恐怖感と不安感におそわれて激しい発作が起こり、 急速にピークに達して持続時間はほとんどが10分 ~15分でおさまります。 人によって違いはありますが、2回目の発作までの 間隔は数日から数週間あり、その後には連続して起 こるようになり、次は何時起こるのかと不安が増強 してきます
(予期不安) ・また起こるんじゃ無いだろうか ・人前で恥をかいてしまうのじゃないか ・だれも助けてくれなかったらどうしよう ・この場所から逃げられないかもしれない
などの予期不安は暫く続きますが必ずいつかは消えていき、次に発作 があったときの経験からその場所や状況を発作と結びつけて考えるよ うになり、その時に似ている状況や場所を避けるようになります
(広場恐怖症) ・公共の交通機関(バス、電車、飛行機、船、での移動) ・開けた空間(駐車場、スーパーマーケット、橋) ・店、劇場、映画館、エレベーター、コンサートホール閉鎖空間 ・列に並ぶ、人混みにいる場所で起こったら
などの症状があり、パニック障害の約80%の人に多かれ少なかれ 広場恐怖症を持っていると言われます。
『広場恐怖症のレベル』 ・軽度 外出に不安があるが、必要な場所へは一人で出かけられる ・中度 一人の外出は困難で行動は規制、付添がいると出かけられる ・高度 ほぼ外出は不可能で、自宅引きこもり状態
パニック障害で逃げられない状況や助けてもらえない状況への恐怖は、対人関係への不安や心配へと移行して、人との接触を避けるようになり
二次的対人恐怖症(社交不安障害)が起こる人も患者さんの約1/3に現れると言われています。
また、心と体が相互に拘わる「心身相関」から体調にも影響する場合がありますので、気になり始めたら早めに医師(メンタルクリニック、神経内科、精神科)に相談すると良いでしょう。
・過敏性腸症候群:下痢や便秘を繰り返し、お腹が張ってくる感覚が します。消化管でセロトニン不足すると蠕動運動が不活発となる・
・片頭痛:ズキンズキンとした痛みや、頭に心臓があるかのような波 打つ痛みがします。血管をコントロールする自律神経の交感神経が 活発になると心拍数・心収縮・伝導速度が総て増加し血管を圧迫し て知覚神経にも影響します。
・睡眠障害:睡眠中にもパニック発作が起こることがあり、この経験 から予期不安を起こす。また交感神経の緊張からの睡眠障害も引き 起こされます。
パニック障害の原因の詳細は解明されていませんが、主に次の5つが拘わっているのではと考えられています
パニック障害の治療法は大きく分けると「薬物療法」と「精神療法」の 2種類の方法があります。
しかし、どちらを選ぶかではなく、症状や状況に応じて選択し、時には併用するのが快方へ導いてくれます。
薬物療法とは薬を飲んで治すという治療法で、抗うつ剤・抗不安薬・漢方薬(東洋医学で説明)などを用います。
<抗うつ剤> SSRI:セロトニン再取込阻害薬で脳内から元の細胞へ取り込まれ るのを防いで脳内のセロトニン減少を防ぎます。 バロキセチン、セルトラリン、フルボキサミン、 エスシタプラム
SNRI:セロトニンとノルアドレナリンの再取込阻害薬で、脳内の バランスをとる薬でパニック障害では、2番目の薬とされる ミルナシプラン、デュロキセチン、ベンラファキシン
三環系:古い抗うつ剤で抗鬱作用が強いが副作用も強いので、一般的 には第1に使う薬には不向き イミプラミン、クロミプラミン
四環系:三環系よりも効果と副作用が抑えられた薬で、眠りを深くす る作用が優れているので不眠症状に効力があり、SSRIよ りも抗鬱効果は弱め
<抗不安薬> ベンゾジアゼピン系:神経の興奮や不安を鎮める神経伝達物質ギャバ の活性を高め、パニック発作や予期不安に即効性があり、 短時間型・中間型・長時間型・超時間型がある。広場恐怖 症や鬱状態には効果が少ない 短時間 クロチアゼバム、エチゾラム、 中間 アルプラゾラム、ロラゼパム、プロマゼパム、 長時間 クロナゼパム、クロキサゾラム、 超時間 ロフラゼブ酸エチル、フルトプラゼパム
β遮断薬:βアドレナリン受容体遮断薬で不整脈の治療薬だが、パニ ック発作の激しい動悸症状に使用される プロプラノール、ピンドロール、カルテオロール
精神療法とは薬を使わないで、医師との対話を通して治療を行うもので、薬物療法では治せない「心の動き」を医師との会話を介して認知、情緒、行動に働きかけて治療をする方法で、主に 「心理教育」「カウンセリング」「認知行動療法」「自立訓練」などがあります
<心理療法> 患者さんや家族が治療に向かうための心の土台をつくるもので、病気 や治療への理解を深めてもらうための知識を学んでもらいます。
<カウンセリング> 医師や臨床心理士が対話をしながら進め、思いを聞いて生活環境・思 考・行動などを洗い出して病気に繋がる問題点を探します。
<認知行動法> 認知法では病気にとってマイナス思考になっている自分に気づかせ、 間違った考えと認識させます。 行動法では不安を呼び起こす場所や状況に自分自身の身をおいて、 徐々に馴れていき、不安と現実の違いを身につけていきます。 この認知行動法は治療や再発防止に多岐効果が認められています。
<自立訓練法> 不安を取り除くための「リラックスする方法」で、スポーツ選手の メンタルトレーニングやビジネスマンのストレスケアーなどにも幅広 くりようされる訓練法です。
東洋医学に於ける漢方薬の処方は心臓神経症としてとらえて、他覚的所見は少ないが愁訴が非常に多く不安感を伴う者を対象とします。
狭心症に似た症状の発作を訴える患者が発作のない平常時にも次の愁訴を訴える場合に用い、各症状に合致する薬剤を選択する 疲れやすい、頭痛、不眠、多汗、寝汗、顔面蒼白または赤面、めまい 手指のふるえ、失神などの不定愁訴
[半夏厚朴湯] 胸が圧迫され息が詰まる感じで発作的心悸亢進があり死ぬのではな いかとの不安を訴える者や、喉に何かが詰まっていると訴える者に
[柴胡加竜骨牡蠣湯] 胸脇苦満と心窩部膨満のある者で神経過敏、発作性の心悸亢進を訴 えて、呼吸促迫と胸痛がある者に、不眠・肩こり・めまい・便秘を 訴える者もある。 腹診で臍の横で動悸を亢進がみら見られる事れる
[当帰湯] 狭心症の症状で胸が締め付けられ様に痛み、その痛みが背中まで 波及し、呼吸が苦しく腹・胸・背などに冷感を訴える者 腹から左脇部に何か物が衝き上がる様に感じる場合で上腹部が膨満 するが軟弱で強い抵抗がなくガスの充満が感じられる
[奔豚湯] 発作的に下腹部から何かが衝き上がる感じを受け、心悸亢進・胸背 部痛・呼吸困難などを訴える者で往来寒熱(悪寒と発熱が交互に出現) の症状を示す事もある
[桂枝加竜骨牡蠣湯] 柴胡加竜骨牡蠣湯に似た症状で虚症で神経症徴候の者で体力があま りなく疲れやすく腹部膨満・胸脇苦満があり、臍の上部に動悸の 亢進がある
東洋医学ではパニック障害の原因を鬱証として弁証から施術し治療を行いうので、神経症の治療と同様になります。
情志が憂鬱から気機が鬱滞して起こる病症を鬱証といい、抑鬱、情緒不安定、胸脇苦満、疼痛、怒りっぽい、良く泣く、喉の梗塞感、不眠、などの不定愁訴を訴える。
気鬱が鬱滞して長期にわたって改善されないと病は気分から血分に及んで多くの病変がさらに出現してくるが、基礎には気鬱があるのでそれが変化して血鬱・痰鬱・湿鬱・食鬱に分類される鬱証が出現する。
脳から出ている12本の末梢神経の内で10番目の迷走神経は運動神経・知覚神経・副交感神経の作用を行う混合神経で、延髄上部の迷走三角にある迷走神経背側核(灰白質)から伸びている神経で主な仕事は副交感神経の働きをしています。
この神経はオリーブ核と下小脳核の間の溝から出て、頚静脈孔を通り外頭蓋底に出て、咽頭外側で内頸動脈及び総頸動脈と内頸静脈の間の外側を下降して胸腔に入っていきます。
この時に咽頭外側の下端は頚椎6~7番の高さで圧迫を受けると、迷走神経の伝達機能が低下して働きが衰えます。
また、脊髄と脳は共通の髄膜(外側から硬膜、クモ膜、軟膜)に内側から覆われていて、この中を脳脊髄液が流れています。
脳脊髄液の量は90~150mlで脳内には約20%がクモ膜下腔に存在し、血液の赤血球成分を含まないリンパ液に似ている液体で、一番の働きは浮力で浮かせて脳と脊髄を外部からの衝撃から保護をしています。
また、脳は一番血液を要求して活発な運動を行いますので、当然に熱を発生しますの、この熱を冷却する働きを持っています。
頚部の圧迫は神経伝達と脳脊髄液の循環を悪くしますので、脳に対しての影響は大きなものとなります。
●後頭椎骨関節調整 後頭下筋の緊張を緩めて頭部への血流を増加させ、頚の痛み・頭痛の 緩和を行います
●前頭後頭骨ホールド 頭蓋に現れる主要呼吸メカニズムの評価
●仙骨ホールド 仙骨の可動域の評価とリズミカルなインパルスの感知
●後方側頭骨ホールド 蝶形骨大翼と後頭骨鱗部とのリズミカルなインパルスを感知
●蝶形後頭底結合の働き確保 脳脊髄液の波動減少の緩和
●頭頂骨リフト 大脳鎌、小脳テントの調節
●蝶形骨大翼・前頭骨調整 三叉神経系の調節
●蝶形骨大翼調整 交感神経と副交感神経の調整