首には頭から肩までに7個の骨があり、その骨の下から左右に一対ずつの神経が出ていて、それらをまとめるのが腕神経叢と言います。
これらの神経が筋肉を動かす命令(運動神経)を伝えたり、末端からの感覚を脊髄を通って脳に伝えたり(感覚神経)しています。
では、肩関節周辺の疾患の種類をみてみます
【上腕二頭筋長頭腱炎】
上腕二頭筋は肩甲骨の関節上結節から橈骨の粗面に付着する長頭と、肩甲骨の鳥口突起から橈骨の粗面に付着する短頭があり、この長頭が上腕骨の大結節と小結節の間にある結節間溝にある上腕横靱帯の下の、結節間滑液鞘の中を通って行く時に圧迫や摩擦で炎症を起こす状態を言います。 比較的若い世代では炎症が周囲の組織に波及や関節拘縮したりなど無く長頭炎のみの症状を示します。 しかし、中年以降では、しばしば炎症が周辺組織にも拡大して五十肩の症状に移行する事があります。
☆特徴 肩関節前面の痛み、重い物を持つと悪化、結節間溝に必ず痛 みがある、ヤーガソン・スピード・ストレッチ各テストに陽性
【腱板炎】
腱板(回旋腱板・ローテーターカフ)とは肩関節の可動を大きくし尚且つ安定性を維持する為に、肩甲骨からの棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の4つの筋が共に働く特殊な仕組みを腱板と言い、この腱板の変性や炎症を腱板炎があり、関節拘縮が無いものを腱板炎と言います。 五十肩の初期症状で肩関節の拘縮が無い物をこの腱板炎と呼ぶ学者もいますが、若い世代にも発症する事から五十肩とは異なります。 ☆特徴 肩関節の運動痛はあるが可動制限は軽度か無い、有痛弧テス トは可能、夜間痛と拘縮は無い。
【腱板断裂】 腱板は加齢に伴う退行変化によって断裂が起こりやすくなり、腱板の中でも特に棘上筋が多くを占めていて、上腕骨大結節附近に疼がみられて、完全断裂と不完全断裂があり、完全断裂では挙上が不能になります。
腱板が断裂すると上腕骨と肩峰の間で腱板が挟まれる形になり、疼痛が生じる現象を肩峰下インピージメント症候群といいます。
腱板炎との鑑別は難しいが、他動的な外転が可能なのが腱板損傷になりますが、経過が長くなると肩関節の拘縮が起こり五十肩との区別が困難に。☆特徴 自発痛と夜間痛あり、自動の肩関節外転が痛みで出来ないが、他動では可能、有痛弧テストで陽性、発病後2~3週間で棘上筋・棘下筋の萎縮がある。
【肩峰下滑液包炎】 肩峰と三角筋の下に肩甲下滑液包がありその下を通って棘上筋が上腕骨の大結節に付着するが、上腕骨を挙上(外転)するたびに、圧迫を受けますが、これが引き金で炎症を起こすのは希で、腱板炎・腱板損傷・石灰沈着性腱板炎・長頭腱炎などの後の二次的な合併症として夜間痛が現れ、進行すると肩関節に腫脹や熱感が発生します。 ☆特徴 腱板炎症状に自発痛と夜間痛が出現、進行すれば熱感と腫脹、結節以外にも圧痛がある。
【石灰性腱炎】 腱板の変性や繊維軟骨かが生じてリン酸カルシューム(石灰)が沈着する事で急性炎症を引き起こします。 急性ですので突然の激痛と夜間の痛みのために、殆ど上肢を動かす事が出来なくなり、痛みによっての睡眠が出来ない等の症状が現れます。 40~50代の女性に多く発症します。 ☆特徴 急激な自発痛と夜間痛、肩関節の運動制限は全方向へ、肩関節部に発赤と熱感。
【五十肩】
五十肩とは「肩が痛く夜も寝られず腕が挙がらない」状態を想像します。またギックリ腰等と同様に一般的な俗語であるも、整形外科医師の本にもこの俗語が記載されています。
しかし肩関節の専門研究者による論文では、症状や分類によっての呼び方にしても「肩関節周囲炎」「五十肩症候群」等の違いがあります。
ですので現在でもハッキリとした定義として確立されていないのが実情の五十肩です。
☆特徴 初期は肩関節の疼痛に外転外旋制限、衣服の着脱と結髪・結滞に制限、進行時期には自発痛と夜間痛、圧痛箇所が複数出現。
五十肩と他疾患の鑑別に、関節液(滑液)を採取して鑑別をしたり、関節腔内に薬剤(副腎皮質ステロイドやヒアルロン酸)の注入して治療を行う事ができます。
五十肩の治療では病期は、急性期・慢性期・回復期の3つあり、それぞれの病期は4ヶ月程度と考えられ、回復までには1年程度が見込まれていて、治療の基本は保存療法が基本になります。
疼痛が激しいときには、鎮痛剤の投与や外用剤の併用、注射療法などがあります。
慢性期になると、理学療法(コットマン体操、内旋ストレッチ、徒手矯正)を行いますが、改善されない場合には手術療法(鏡視下授動術)があります。
整形外科による薬物療法
急性期にはNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の内服薬投与がありますが、消化性潰瘍の発症や腎臓・肝臓障害、NSAIDs過敏喘息などの副作用リスクを伴います。 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) アスピリン、ジクロフェナク、インドメタシン、ロキソプロフェン
十肩は肩関節可動制限が起こる症候で、退行変化を基盤として肩関節周囲組織に炎症や癒着が生じて、初期は夜間や動かさなくても疼痛が起こりやがては肩が挙がらない等の症状が現れます。
鍼灸治療では、「肩頚痛」でも述べていますが、原因が多岐にわたる為に、検査での部位の特定を行ったうえで、治療穴の選択をします。 例えば、後ろへ腕が回らない場合(結滞動作で疼痛)には、痛みが体の前方に出ることが多く、前方の小胸筋・鳥口腕筋・上腕二頭筋や肩鎖靱帯・鳥口鎖骨靱帯・鳥口肩峰靱帯等の収縮もしくは炎症、又は関節の癒着が考えられるので、前方に位置する経穴を選択します。 前方への挙上で痛み(結髪動作で疼痛)には、後方の問題として捉えて小円筋・棘上筋・棘下筋・肩甲下筋などの腱板(ローテーターカフ)や、それらに繋がる腱を考えての選穴を考慮しなければなりません。
巨骨、肩髎、肩髃、肩貞、天宗、秉風、風池、天柱、肩井、天髎、肩外兪、附分、魄戸、肓門、臑会等の経穴 鳥口突起周辺、結節間溝、上腕骨と鳥口突起の間などにある圧痛部位への刺鍼と手技。
加齢に伴う退行変化で肩関節の周囲に炎症と運動制限が起こるとされていて、自然治癒には1年から2年を要するもので、疼痛を和らげたり治癒までの期間短縮を目的に処方される。
処方などは「肩頚痛」を参照して下さい。
葛根湯、二朮湯、大柴胡湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加苓朮附湯、加味逍遙散合四物湯、等が処方される。
オステオパシーに於いて五十肩の治療では、肩甲骨由来・鎖骨由来・上腕骨由来、肋骨由来の場合があります。 治療では、肩甲骨、鎖骨、肋骨(1~3番)、肩甲翼、もしくは肋骨8番迄のコントロールをします。
また内臓(膵臓・腎臓)から連鎖しての場合(内臓体性反射)もあり、その場合には先に内臓の治療をする必要があります。
この場合には、腹部内臓腔幕検査及び治療法で、直接法を用いて腹腔臓器へアプローチをします。
主なオステオパシー技法は下記を参照
【骨治療】抑制検査に於いて左右の硬い側の骨が治療対象となり、症状 がある側とは限らない。 ☆骨呼吸法:肩甲骨、鎖骨、肋骨骨の呼吸を触知し、吸気を促進する ☆関節窩リリース:上腕骨を関節窩の中心に位置させる ☆関節ストレッチ:スペンサー技法(1~8)
【筋・筋膜・靱帯】誇張法により筋・筋膜・靱帯のリリースを行う。 ☆筋・筋膜リリース:小円筋、小胸筋、棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、 上腕二頭筋、鳥口腕筋などのカウンター・ストレイン ☆靱帯リリース:鳥口鎖骨靱帯、鳥口肩峰靱帯、鳥口上腕靱帯、 肩鎖靱帯、などのカウンターストレイン