整骨院や鍼灸院に通院ている、痛みを訴える患者様の約30%以上は、腰・下肢に次いで、2番目に数えられる位に多くいらっしゃいます。
頚・肩・上肢の痛みを脳に伝えるのは脊髄神経の頚神経叢・腕神経叢が伝達経路で、上肢は腕神経叢の出る筋皮神経・腋窩神経・正中神経・橈骨神経・尺骨神経に分岐しています。
痛みはまず神経終末の受容体(感覚器)で感じた痛覚が脊髄神経細胞から脊髄の後角海綿体(一次ニューロン)に至り、そこから反体側の外側脊髄視床路(二次ニューロン)を脳に向かって上行し、脳幹の脊髄毛帯を通り、視床の後外側腹側核に入り、ここから三次ニューロンに替わって感覚中枢の大脳皮質体性感覚野(中心後回)に達して痛みとして感じる訳ですが、痛覚は有髄繊維の神経終末から伝わるので100m/秒と言う、無髄繊維の100倍のスピードで感覚を伝えます。
頭頚部の皮神経は三叉神経、頚神経叢(C1~C4)皮枝、後頭神経(C2・C3)によって支配されていて、それぞれ伝達経路が異なります。
上肢は代表的な5種類の神経がネットワークを組んで、そのネットワークから肩甲骨や上胸部への各神経に分岐し、それに腕神経叢(筋皮神経・腋窩神経・正中神経・橈骨神経・尺骨神経)が加わって感覚を司っています。
頚部には7個の頚椎があり、1番(環椎)と2番(軸椎)は頭蓋骨を支える働きをもち、後頭骨と椎間関節をつくっていて、回旋運動を司っています。3番から7番までが、前屈・後屈、左右側屈、回旋運動に関与しており、それぞれの運動に主要な役割と補助的な役割を持った筋が浅い筋と深い筋に分類されていて、後頭骨や頚椎から下部の骨に付着して働いています。
頚神経は8本存在していて第1横突起の上と、それぞれの横突起下から頚神経が出ていて、それぞれの神経が明確な分節のデルマトーム(下記にて神経説明で詳細)を示しています。
頚部神経根傷害は圧倒的に中位から下位の頸椎(C4~T1)に多く、C4以上には傷害の検出がし難く、自覚も少ない。
頚部神経根傷害の種類には、胸郭出口症候群(斜角筋症候群・肋鎖症候群・小胸筋症候群)、頚椎症、肩関節周囲炎(肩峰下滑液包炎・棘上筋腱炎・腱板炎・癒着性関節包炎など)、肘関節痛(外側上顆炎・内側上顆炎・肘部管症候群・円回内筋症候群)、手関節痛(手根管症候群・ギオン管症候群・ドウケルバン病)などがあります。
鎖骨の運動は肩甲骨の運動を伴い、肩甲骨の運動は普通は上腕の運動を伴います。通常は挙上、下制、内転、外転、上方回旋、下方回旋の6種類の運動を行ない連動した動きがスムーズに行くように調整を行っています。
例えば、上腕骨を外転して水平に保ち片方の手で鎖骨に触れて、上肢を内旋・外旋をしてみて下さい、すると鎖骨は内旋では前方回旋し、外旋では後方回旋しているのを感じ取れるはずです。
これらの運動にも多くの筋が協力して働いていて、連動したスムーズな動きが出来ています。
痛みや動作制限がある場合には、関節の問題からか、筋の問題なのか、又は靭帯の問題なのかを知らなければなりません。
腕神経叢は頚神経の第5~第8と胸神経の第1の前枝が形成するネットワークで脊髄側から、神経根・神経幹・神経束の3部に区分されます
アドソンテスト:前・中斜角筋隙に於ける橈骨動脈と 腕神経叢を圧迫
患者が頚を後屈(伸展)し、患側に回旋し深呼吸 をした時に橈骨動脈拍動を感知し、症状の再現 の有無をみる。拍動の消失・減弱や症状再現が あれば陽性
モーリーテスト:前・中斜角筋隙に於ける橈骨動脈と 腕神経叢圧迫
鎖骨上窩内側部(斜角筋部)を4指で圧迫する 圧痛・放散痛があれば陽性
エデンテスト:第1肋骨・鎖骨間、頚肋鎖骨間に於け る橈骨動脈と腕神経叢圧迫
患者は患側上肢を下垂し、検者は橈骨動脈拍動 を触知しながら、患側上肢を後下方に索引し肩 を引き下げ 橈骨動脈拍動の消失・減弱が あれば陽性
ライトテスト:肩を過外転・外旋したときに橈骨動脈 の拍動を感知し、症状再現の有無をみる 症状再現と橈骨動脈の拍動消失は陽性 減弱は偽陽性
徒手検査法は下記のスパーリングテストとジャクソンテストが一般的に行われています。
共通の治療穴は夾脊穴、天柱、風池、肩井、扶突、肩外兪、膏肓などの経穴があります
神経根症状では、圧迫誘発テスト(スパーリングテスト、ジャクソンテスト)で陽性となる テストイラストは医歯薬出版「鍼灸臨床マニュアル」より
スパーリングテスト:頚部神経根圧迫(頚神経叢)と刺 激症状
患者の頚椎をやや伸展位(後屈)にし、その後ろ 斜め後方に側屈して、頚椎を下方に圧迫すると 頚部の疼痛、頚背部・上肢への放散痛や痺れが あれば陽性
ジャクソンテスト:頚部神経根圧迫(頚神経叢)と刺激 症状
患者の頚椎をやや伸展位(後屈)にし、前頭部 に手を置き、頚椎を下方向に圧迫をすると、 頚部の疼痛、頚背部・上肢への放散痛や痺れ があれば陽性
肩関節の疼痛と運動制限を生じる疾患で、肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)と外傷性の脱臼・骨折、免疫疾患である関節リュウマチなどがあります。
そのうち、最も多いのが肩関節周囲炎ですが整形外科学的には病態認識が一定の定義がなされていません。
五十肩の原因は確定していませんが、関係あるだろとされている、肩峰下滑液包炎・棘上筋腱炎・癒着性関節包炎・腱板炎を一般的な傷害ととみなし、それに関連して上腕二頭筋症候群・鳥口突起炎などが二次的障害と考えられています。
プッシュボタン徴候:肩峰下滑液包の炎症による 腫脹・自発痛・運動津圧痛を検査する。
検者は患者の肩関節を注意深く触診し、圧痛点 を検索する。肩峰下滑液包部に限局した圧痛点 の確認があれば陽性。
ドーバーサイン:肩峰下滑液包の炎症による腫脹・ 自発痛・圧痛を検査
プッシュボタンテストで触知した圧痛点に指を置 いたまま、患者の患側肘を他動的に外転させる。 肩峰突起したの圧痛点を三角筋が覆うために、痛 みの減弱がある場合は、肩峰下滑液包炎を示唆す る。
上腕骨引き下げテスト:正常な肩関節は遊びを持って いるが、癒着性関節炎では遊びが消失する。
患者はうでの力を抜いて下垂し、検者は一方の手 の母指を肩峰と骨頭に当て、他方の手で上腕下部 を握って上下に動かして検査を行う。
遊びがなければ、陽性。
ペインフルアークサイン:腱板部の自発痛・運動痛・ 圧痛痙縮による運動傷害をみる。
肩関節を他動的に外転した時に60°~90°の 間での疼痛の有無をみる。
疼痛があれば陽性
ドロップアームサイン:腱板部の自発痛・運動痛・圧 痛痙縮による運動傷害をみる。
患者に患側の腕を垂直より少し上方に上げさせ、 ゆっくりと腕を下ろさせる。
急な落下や疼痛の出現は陽性。
インピージメント徴候:腱板部の自発痛・運動痛・圧 痛痙縮による運動傷害を観る。
肩甲骨を抑えなが内転位にした上肢を他動的に屈 曲(前方挙上)し疼痛の有無をみる。
疼痛出現は陽性
インピージメント・ホーキンス・ケネディーの手: 腱板部の自発痛・運動痛・圧痛痙縮による運動障害
肩甲骨を押さえながら約90°屈曲(前方挙上)し た上肢を他動的に内旋させ、疼痛の出現をみる。 疼痛出現は陽性
ヤーガソンテスト:関節上結節から結節間溝を下行す る上腕二頭筋長頭の炎症。
患側肘関節90°屈曲位、検者は患者前腕を回内 させる方向に力を加え、患者はこれに抵抗する。 上腕二頭筋の結節間溝部に疼痛発現は陽性
スピードテスト:関節上結節から結節間溝を下行する 上腕二頭筋長頭の炎症。
検者は前腕部を下方に向かい退化らを加え、患者 はこれに抵抗する。
上腕二頭筋の結節間溝部に疼痛発現は陽性
ストレッチテスト:関節上結節から結節間溝を下行す る上腕二頭筋長頭の炎症。
肘伸展位で後方に挙上(肩関節伸展)で肩の前側に 痛みが消失するかをみる。
挙上で疼痛出現し、肘屈曲位で消失・軽減ならば 陽性
肩こりの機序は明らかではないが、4種類の要因が考えられます
1.筋肉の性質で筋膠質の変化でカリ ュウムイオン・セレトニン・アセ チルコリンン等の発痛物質を出現 して痛みを感じる
2.頚椎や頚髄の病変、各種内臓の疾患により、関連痛として発 現する
3.肩背部の疲労、精神的、肉体的疲労から疼痛を感知する
4.自律神経系の不均衡で血管に発痛物質発現と血管の異常収縮 などで虚血性疼痛を発現
肩こりには鍼灸治療が適しており、筋肉中の血行を改善して筋の緊張を和らげる事で肩こりを解消できる
<刺鍼方法>
緊張している筋肉に直接的に刺鍼を行う時には、横紋筋繊維に交差する様に斜刺で刺鍼し旋撚術を加えると効果を増すが、筋の走行を見定める解剖学の知識を要する
<治療穴>
肩井、大序、附分、膏肓、天柱、風池、頚百労、肩中兪、肩外兪、肩貞、天宗、肩髃、肩髎、天髎、臑兪
痺症とは詰まって通じない症状を言い、外邪が肌肉・筋骨・関節に侵襲して、経絡気血の運行が悪くなり、疼痛・麻木・重だるさなどが起こり、さらには関節腫脹・変形・屈伸不利などの運動機能にも影響を及ぼします。
痺症の分類では、風邪、寒邪、湿邪、熱邪が関係します
肩こりは頚項部から肩部にかけての不快感、重圧感、こり感を主訴とする症状で、疼痛や圧痛をを伴い、日常生活で最も目にする症状です
肩こりを分類すると、虚症と実症に分けられます
●虚証:眼精疲労や病後、それに出産などで血虚によって経脈が栄養さ れず、気虚・血虚で堆動作用が働かなくなり、経脈が拘急して 肩がこる 肝血虚
●実症:風寒邪による経脈侵襲・情志の失調などで気滞血瘀、長時間の 不良姿勢や外傷による津液停滞、陰虚のために肝陽上亢によっ て気血の運行不良となり、肩が拘急し肩がこる
風寒、寒飲、気滞血瘀
●虚実挟雑:イライラ感などで肝陽上亢
頚や肩や上肢に痛み痺れなどの症状が現れる病症を現代医学では頸肩腕症候群と総称していますが、漢方薬では痛みや痺れに効果を求める調剤があります。
{芍薬甘草湯}白芍12g、炙甘草12g、 (附子を加える場合には、白芍9g、炙甘草9g、附子3g) 痛みに対して頓服的に用いて効があり、痛みや痺れが寒冷により悪 化する場合に附子を加える
{葛根湯}葛根12g、麻黄9g、桂枝6g、生姜9g、炙甘草6g、白芍6g、 大棗6g 体力は中程度ないしはやや実症で、後頭部痛・肩こり・肩甲骨痛が あり、口渇や発汗を伴わない痛みや痺れに用い、痛みや痺れが寒冷 により悪化する場合には白朮・附子を加える
{二朮湯}蒼朮4.5g、白朮・南星・陳皮・茯苓・香附子・黄苓・ 威霊仙・羗活・甘草各3g、 通常は水毒のある者を目標にするが、特別に証にとらわれずに痛み に対して服用する
{大柴胡湯}柴胡15g、黄苓9g、白芍9g、半夏9g、生姜12g、枳実9g、 大棗4g、大黄6g 実症で便秘傾向あり、胸脇苦満がある者に用いる
{桂枝茯苓丸}桂枝・茯苓・牡丹皮・桃仁・赤芍・各9g 体力中程度で瘀血の所見を認める者の肩こりや痛みに用いる
肩関節を構成する上肢帯は、鎖骨・肩甲骨・上腕骨がそれぞれの関節を成しているので複雑な運動を行っています。
肘関節部では上腕骨と橈骨による腕橈関節と上腕骨と尺骨による腕尺関節、と橈骨と尺骨との上橈尺関節があります。
手関節部では下橈尺関節、橈骨手根関節、その他8個の手根骨間に関節があり、指の関節など多数の関節があります。
この関節間を支える靭帯や骨膜や関節包がり、関節包の中では滑らかに関節運動で出来る様に滑液が満たされています。
しかし、何らかの障害によって滑液が減少すると滑りが悪くなり、痛みが出てきますので、僅かな力で関節を調整して滑液が充満させると、滑りが良くなるのと同時に栄養補給が行われて、疼痛も解消されます。
治療は下記の方法を行います
特に五十肩などでは、鎖骨、肩甲骨、肋骨1~3、肩甲翼、などのコントロールが必要になります。
●肩関節 上腕骨骨頭外旋法 肩甲帯スペンサー法(第1~第8段階) 棘上筋カウンターストレーン 肩甲骨筋膜リリース 胸鎖関節間接法 肩鎖関節間接法
●肘関節 橈尺関節回旋マッスルエナジー(回内・回外) 腕橈関節病変の間接法(前転・外転・外旋) 橈骨輪状靭帯治療法(肘関節脱臼) 肘関節筋膜リリース ●手関節 手関節筋膜リリース 手根管筋膜リリース 橈骨手根関節間接法 手根中央関節間接法 手根中手関節間接法 各指・指節関節間接法